相続した実家がいらない場合、売れる見込みがあるなら、売却するのが基本の考え方です。その際は、相続人全員で相続する(または代表者が相続する)うえで売却します。
どうしても引き継ぎたくないときは「相続放棄」という方法もあります。ただし、実家だけでなく預貯金などほかの財産もすべて手放すことになります。
また、土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」も選択肢の一つとして検討できます。
相続した実家がいらないとき、まず何を考えればいい?
最初に考えたいのは「その実家に資産としての価値があるかどうか」です。大きく分けると、次の3つの道があります。
- 売却する:買い手が見つかりそうなら、相続したうえで売り、お金に換えて分ける
- 相続放棄をする:実家を含め、亡くなった方の財産を一切引き継がない
- 相続土地国庫帰属制度を使う:相続した土地を、一定の条件のもとで国に引き取ってもらう
「誰も住まないから放棄しよう」と急いで決めるのは避けましょう。まずは、売れる可能性やほかの財産の有無を確認します。さらに、制度が使えるかどうかも一度整理することが大切です。
それぞれの方法は、どんな仕組み?
売却するには、どう相続すればいい?
亡くなった方の名義のままでは、不動産を売ることはできません。まず「相続登記」(不動産の名義を相続人に変える手続き)をする必要があります。
名義の付け方には、主に次の2つがあります。
- 相続人全員の共有名義にして売る:売却代金を、それぞれの持ち分に応じて分けます。
- 代表者1人の名義にして売る:「遺産分割協議」(相続人全員で、誰が何を引き継ぐかを話し合って決めること)で代表者を決め、その人が売却して代金を分けます。
どちらの場合も、相続人全員の合意が前提です。代表者が売却代金を分ける場合の税金の扱いについては、税理士と連携して対応します。
なお、2024年4月から相続登記は義務になっています。具体的には、相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に登記が必要です。期限を過ぎると、10万円以下の過料(行政上のペナルティ)の対象となる場合があります。
相続放棄をすると、どうなる?
「相続放棄」とは、最初から相続人ではなかったことにする手続きです。手続きは、家庭裁判所に申し立てて行います。期限は原則として、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内です(民法915条)。
相続放棄をすると、実家だけでなく、亡くなった方の財産をすべて引き継がないことになります。つまり、預貯金・株式・車などプラスの財産も、借金などマイナスの財産も引き継ぎません。「実家だけ放棄する」ということはできません。
相続土地国庫帰属制度とは?
2023年4月に始まった制度です。相続や遺贈(遺言で財産を譲り受けること)によって取得した土地を、一定の要件を満たせば国に引き取ってもらえます。
ただし、対象は「土地」のみで、建物がある土地はそのままでは申請できません。実家の場合は、建物を解体して更地にする必要があります。また、申請時に審査手数料、承認された後に負担金がかかります。
実際にはどんな相談がある?
当事務所でお受けしたご相談の中から、2つのケースをご紹介します(内容は一部変更しています)。
ケース1:売れそうな実家、どう手続きした?
相続人の誰も引き継ぐ予定がない実家でしたが、売却できる見込みがありました。
そこで、相続人全員から委任(手続きを任せる正式な依頼)を受け、売却の手続きをサポートしました。
ケース2:いらない不動産、生前から準備できる?
ご家族がご存命のうちから「この不動産は引き継ぎたくない」とご相談を受けていたケースです。
このケースでは、生前からのご相談をもとに、相続が始まった後に計画的に相続放棄を行いました。相続放棄には期限があるため、早めに相談しておくことで準備の時間を確保しやすくなります。
手続きはどんな順番で進める?
売却する場合の流れは?
- 戸籍などを集めて、相続人が誰かを確定する
- 不動産を含む財産の全体を確認する
- 相続人全員で遺産分割協議を行い、名義を誰にするか決める
- 相続登記を行い、名義を相続人に変更する
- 不動産会社に依頼して買い手を探し、売買契約を結ぶ
- 買い手へ名義を移す登記を行い、代金を分ける
相続放棄をする場合の流れは?
- 財産の全体(プラスもマイナスも)を確認する
- 戸籍などの必要書類を集める
- 亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出する
- 家庭裁判所からの照会書(確認の質問)に回答する
- 受理されると「相続放棄申述受理通知書」が届く
財産の調査に時間がかかることもあります。その場合、3か月に間に合わなければ、家庭裁判所に期間の延長(伸長)を申し立てることができます。
国庫帰属制度を使う場合の流れは?
- 土地が制度の要件を満たすか確認する(建物がある場合は解体を検討)
- 土地を管轄する法務局に事前相談をする
- 申請書と必要書類を提出し、審査手数料を納める
- 法務局の審査(現地調査を含む)を受ける
- 承認されたら、通知から30日以内に負担金を納める
審査には一定の期間がかかるため、時間に余裕をもって進めることが大切です。
気をつけるべき点は?
相続放棄をすると、ほかの財産はどうなる?
相続した実家がいらないときによくある勘違いが、「実家だけ放棄できる」というものです。実際、相続放棄をすると、不動産以外の財産も引き継げなくなります。預貯金などのプラスの財産がある場合は、放棄によって失うものも含めて判断する必要があります。
放棄の前に財産に手をつけても大丈夫?
亡くなった方の預金を引き出して使ったり、不動産を売ったりする場合は注意が必要です。その場合、相続を認めた(単純承認した)とみなされ、相続放棄ができなくなることがあります(民法921条)。放棄を考えている間は、財産の処分を控えることが大切です。
自分が放棄したら、それで終わり?
相続放棄をすると、相続の権利は次の順位の人(例えば、子どもが全員放棄すれば亡くなった方の親や兄弟姉妹)に移ります。親族間で事前に話をしておかないと、思わぬ形で負担が移ることがあります。
また、放棄の時点で実家を実際に管理・使用している人には注意点があります。その人は、次に管理する人に引き渡すまで、その財産を保存する義務を負う場合があります(民法940条)。
山林などは、売れないとあきらめるしかない?
山林などは「どうせ売れない」と思われがちですが、場合によっては売れるケースもあります。あきらめて放棄する前に、売却の可能性を確認してみる価値はあります。
国庫帰属制度は、どんな土地でも使える?
使えない土地もあります。建物がある土地のほか、担保権が設定されている土地、境界がはっきりしない土地、土壌汚染がある土地などは対象外です。解体費用や負担金もかかるため、売却や放棄と比べて検討する必要があります。
どんなときに専門家へ相談したほうがいい?
次のような場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
- 相続人が多い、または連絡がとりにくい相続人がいる
- 売却するか、放棄するか、国庫帰属制度を使うか迷っている
- 亡くなった方に借金があるかどうか分からない
- 相続放棄の3か月の期限が迫っている
- 古い登記のまま、名義が祖父母の代から変わっていない
- 生前のうちに、引き継ぎたくない不動産について準備しておきたい
司法書士は、相続登記や相続放棄の書類作成、国庫帰属制度の申請書類の作成などをお手伝いできます。売却に伴う税金や、相続人同士の話し合いがまとまらない場合については、税理士・弁護士と連携して対応します。
岡山市の司法書士法人SORAでも、相続した実家がいらない場合など、相続した不動産に関するご相談をお受けしています。
結局、相続した実家がいらないときはどうするのがいい?
相続した実家がいらない場合でも、売れる見込みがあれば売却するのが基本です。その際は、相続したうえで売却し、お金に換えて分けます。一方、引き継ぎたくない場合は相続放棄もできます。ただし、ほかの財産も手放すことになるため、財産全体を見て判断しましょう。土地を国に引き取ってもらう国庫帰属制度も、条件が合えば選択肢になります。
どの方法にも期限や要件があります。迷ったときは、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
よくある質問は?
Q1. 相続放棄の3か月を過ぎてしまったら、もうできない?
原則として、3か月を過ぎると相続放棄はできなくなります。ただし、亡くなった方の財産の存在を知らなかったことに相当な理由があるなど、事情によっては受理される場合もあります。気づいた時点で、すぐにご相談ください。
Q2. 相続人のうち1人だけが相続放棄することはできる?
できます。相続放棄は、相続人それぞれが自分の判断で行う手続きです。ただし、放棄した人の分はほかの相続人や次の順位の人に影響するため、事前に話し合っておくと安心です。
Q3. 相続した実家がいらないので、そのまま放っておいてもいい?
おすすめできません。相続登記は義務化されており、正当な理由なく放置すると過料の対象となる場合があります。また、時間がたつと相続人が増えて、話し合いや手続きが難しくなることもあります。
※事例は実際のご相談をもとに、個人が特定されないよう内容を一部変更しています。
この記事の監修者
柚木 徹也(ゆのき てつや)
司法書士法人SORA 代表/司法書士
- 岡山県司法書士会所属 第861号
- 簡裁訴訟代理認定番号 第1112075号
- 得意分野:相続・遺言・不動産取引
香川大学法学部法学科卒業。2011年に司法書士試験に合格し、神戸の司法書士法人で相続手続き・不動産登記を中心に、商業登記・債務整理・遺言執行など幅広い業務に携わる。2016年に地元へ戻り個人事務所を開設、2021年8月に司法書士法人SORAを開設。「士業に相談するハードルを下げたい」という思いから、税理士など他士業と連携し、相談から手続きまで伴走できる体制づくりに取り組んでいる。
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